第一部:基調講演「森は海の恋人」畠山重篤氏(「牡蛎の森を慕う会」代表)(講演要旨は後述)
第二部:パネルディスカッション
荒川源流域の森林や水に関わっておられる各専門家のパネリストの皆さんと地元中学生の皆さん
(パネリストの皆さん)
畠山 重篤氏(「牡蛎の森を慕う会」代表)
鍛代 邦夫氏(日本大学生物資源科学部)
松枝 修治氏(水資源機構荒川ダム総合管理事務所長)
大島 誠一郎氏(埼玉県秩父農林振興センター所長)
久喜 邦康氏(秩父市長)
内藤 勝久 (NPO法人百年の森づくりの会理事長)
(質問者の皆さん)
A 佳枝さん(影森中学校)
O 那意さん(秩父第一中学校)
A 秀佑さん(秩父第一中学校)
A 純さん(秩父第二中学校)
M 朋子さん(秩父第二中学校)
中学生から
①秩父の森林の現状について
②秩父にある4つのダムの水の使われ方について
③秩父の森林は豊かなのかどうか
④秩父のシンボル武甲山は元の森に戻るのか
⑤秩父の森づくりに私達はどのように関わっていったら良いか
などの質問に対して、各専門家のパネラーの皆さんから一つ一つ丁寧にお答えいただき、秩父の森林、荒川の水への認識を高めることが出来ました。
僕たち・私たちの未来のために、何が出来るのか、大人も子供も出来ることからやっていくことの大切さを改めて感じさせていただきました。
●「ははその森」=秩父と気仙沼を結ぶもの
秩父神社の森を「柞=ははそ」の森といいます。
歌人前田夕暮は秩父に滞在して約2000首の歌を作ったことで有名です。この前田夕暮の歌友で気仙沼出身の熊谷武雄という歌人がいて、この代表的な歌に「ははそ」という言葉が使われているのです。
手長野(てながの)に木々はあれどもたらちねのははそのかげは拠るにしたしき
「ははそ」はナラとかクヌギの木の古語だそうです。ナラなどの林の傍に行くとお母さんの傍によったように心が安らぐという意味だそうです。このことが秩父との接点になった訳です。
●森は海の恋人
海というものは森林があって、川があって、海がある。森林から海への流れの中で牡蠣の餌となる植物プランクトンが増えて、それを牡蠣が食べて育つのではないかと思い、20年前から「森は海の恋人」といって、漁師が山に木を植えることを始めました。
20年経ち、背より高くなり、蝶々とかハチとか虫が増えると鳥も増えてきます。「ははその森」とは、自然界の母のようにいろんな生き物を育ててくれるのです。そして森は山だけを豊かにするのではなく、川を通して海を豊かにしてくれるのです。
●京都大学「森里海連環学」
林学から水産学までを全部一つにした組織を作り、世界で初めて、「森里海連環学」を立ち上げたのです。この学問で「里」をいれたのがキーポイントです。自然の中に「里」、つまり人間の生活が横たわっているわけです。理系ですが文系もからませているのです。
●植物と「鉄」の役割=フルボ酸鉄
海の中には植物プランクトンがあり、それを動物プランクトンが食べ、また小魚が動物プランクトン食べ、大きな魚がまた小魚を食べる、つまり食物連鎖が続くわけです。
植物プランクトンの成分で、窒素、りん、珪素などのほか、大事なのは「鉄分」です。オホーツク海に流れるアムール川は茶色っぽい水です。森林の腐葉土の中にはフルボ酸とフミン酸という森の養分が溶け込んでいます。これと鉄が結びついて流れており、アムール川の鉄分の濃度は太平洋の外海の濃度の
100万倍あるそうです。水に溶けた鉄とフルボ酸が結びついてフルボ酸鉄になり、森林から海に流されてきて海の植物プランクトンを育てるのです。
このアムール川の養分は、オホーツク海に運ばれ、千島列島を通って遥か三陸沖まで来ているのです。三陸沖は世界の三大漁場の一つと言われています。
●森と海の関わり
荒川の水源の「ははその森」、その森林の養分が荒川から東京湾に流れてきて、東京湾の江戸前の魚介類の元になっているわけです。
ですから、三峰神社に行くと築地の魚河岸の旦那方が何万本というたくさんの苗木を寄進している石碑があるのです。森林への感謝の気持ちの現れです。東京湾へ行って海から山を見ると、荒川の上流の母なる山々が見えるそうです。これが信仰の山なのです。
秩父には、秩父神社の「ははその森」があります。そして三峰神社には海の人間が関わっています。
秩父には海の見えないところまで海の人間が関わるという壮大なコンセプトをもって育んできたものがあります。このような秩父をキーワードにして、今後いろいろな計画を進めていただけたらと思います。